
感動する書籍を読むことも大事だが、感動する映画に出会うことも貴重な経験だ。楽しんで見ている映像を教材にするのは野暮なことかもしれないが、学ぶことの多そうな映像から生まれる、身近で、何か楽しく、自然に学べるようなレッスンなら、受けたいと思う人も多いのではないだろうか。
リーダーシップを学ぶ人に見て欲しい映像といえば、『大脱走』『十二人の怒れる男』『ディスカバリーチャンネル アポロ11』『クリムゾン・タイド』『スタートレック』『八甲田山』……挙げ出すとけっこう多数存在する。
しかし、世代を問わず大きく話題になった最近の作品といえば、なんといっても、『踊る大捜査線』THE MOVIEの2作だ。
テレビシリーズを含む『踊る大捜査線』シリーズには、子どもからビジネスパーソン、そしてもう退職した、あるいは退職間際のベテランにいたるまで、あらゆる人にとって何かを感じ、学べる素材が偏在する。
この興味あふれる素材を元に、経営学の中で本来、もっとも身近で日常的にも役に立つはずの組織論というものを、できるだけわかりやすく読者の方々にお届けすること??それが本書の目的である。
もともと本が好きな人、組織論を学びたいと思っている人にはもちろん読んでいただきたいが、ふだんはあまり本を手にとらない人にも、また、経営学なんて自分とは関係がないと思っていた人たちにも、ぜひ目を通していただきたいトピックを選んでいる。
言わずもがなではあるが、この映画の一番の支持者は10代、20代の若い人たちだろう。若い人たちは、当然のことながら、現場で本当に一生懸命に働いている、織田裕二が扮する青島刑事の世代に共感しながら、しばしば、だらしない上司や、現場を知らない本部への呆れと怒りを共有しながら、映像に吸い込まれることだろう。
ミドル以上の人は、柳葉敏郎扮する室井管理官の姿に照らして自分らのリーダーシップを振り返り、現場の若い人たちにとって、真にエンパワーメント(元気づけ)となる振る舞いができているか、チェックしていきたいものだ。
またベテランの方は、故・いかりや長介扮する和久指導員に惹かれて、ひとつの「よい歳のとり方」を現場で示すその姿に同一化して、この映画を見るだろう。
そういう意味では、本書はそれぞれの世代ごとの関心で、手にとっていただきたいメッセージを含む書籍である。
『踊る大捜査線』シリーズのような迫力のある音響を伴う映像があって、そこから組織のダイナミズムをライブに学ぶというのは、ひとつの理想だ。
本書を読んで、再度『踊る大捜査線』THE MOVIEの2作をビデオ、DVD等で見直して欲しい。それから、すばらしいシナリオ・ガイドブックもキネマ旬報社から出版されているので、それもぜひ併せて読んで欲しい。
そういう企画から生まれた本がきっかけで、再度『踊る大捜査線』を見ながら、仕事や会社のことで悩んでいる親子の間で、いつも互いにに相手こそ「問題」だと思っている上司と部下の間で、また、働きはじめて組織について悩みはじめた若いカップルの間でも、対話が生まれたら最高である。
なお、共著者の田柳恵美子氏は、私にとって思いで深い企画だった『ウルトラマン研究序説』(中経出版、のちに扶桑社文庫から再刊)の共著者のひとりであり、今回もまた、田柳氏との最高のコラボレーションのもと、本書をまとめることができた。十数年経て、再びこのような仕事が一緒にできてうれしく思っている。
そして最後になったが、『踊る大捜査線』シリーズの生みの親であるプロデューサーの亀山千広氏、台詞の中に珠玉の言葉がちりばめられているが、その引用を許してくださった脚本家の君塚良一氏、フジテレビの関係者のみなさんの承諾がなければ、本書の企画は実現し得なかった。
とりわけ亀山氏は、この一連のドラマと映画は、リアリズムを重視しフィクションでありつつも、できるだけ現実に近い組織の姿を描いていること、また映画第2作は、組織論を軸に、「組織で勝つ」をテーマに描いたとおっしゃっていたことから、この映画を元に、我々が組織論の入門書を執筆したいと申し出たとき、即断で理解を示し、支援してくださった。
『踊る大捜査線』の関係者の方々に心から感謝申し上げたい。
第1章 組織のダイナミズム
File1 事件は現場で起きている
「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」
File2 完全無欠なルールなどない
「……何がマニュアルだ……」
File3 現場が求める即興性
「勝手に動くなといいたまえ」
「もう(現場に)着いちゃいます」
FIle4 資源配分のジレンマ
「事件に大きいも小さいもない」
File5 集団圧力に負けない意思決定とは?
「おまえらは勝手に犯人像をふくらませ、自ら霧の中に迷い込んだ」
第2章 組織とミッション
File1 「使命」とは命を使うこと
「正しいことができないんだ。……自分の信念も貫けない」
File2 人はいかに組織に染まるか
「おれたちは逮捕するだけが仕事だ」
File3 社是社訓が組織文化のインプットになるとき
「人が事件を起こすんじゃない、事件が人を起こすんだ」
File4 頑張るミドルほど燃え尽きやすい
「あんたは、えらくなったんだ。何もしなくてよかったのによ」
File5 やりがいをどう設計するか
「誰のために働いてんだか……」
File6 夢がビジョンになりミッションになる
「頑張りましょうよ、おれたちの思い実現するまで」
第3章 組織のカタチ
File1 官僚制組織はなぜすぐれているのか?
「わたしに指揮権などない。指揮するのは、もっと上の官僚だ。」
File2 組織図の読み方
「本店の人たち来て、ここに泊り込むことになったら、弁当出して、お茶出して、タクシー代出すの、みんなうちなのよ」
File3 新テクノクラートの台詞
「さっすが、仕事早いね、係長」
File4 組織をダメにする官僚的態度
「レインボーブリッジを封鎖できません」
第4章 組織とリーダーシップ
File1 人はいかにしてリーダーになるのか
「みなさん、所轄の意地、見せてやりましょう」
File2 なぜリーダーに権威が必要なのか?
「室井さん、命令してくれ!おれはあんたの命令を聞く!」
File3 変革的リーダーシップの条件
「リーダーが優秀なら、組織も悪くない!」
File4 世代から世代へ受け継がれるメンターシップ
「おめえの信念貫いて、人の希望になってやれ……なんてな」
File5 進化する組織のための新しいリーダー像
「室井さん、しびれるような命令をありがとうございました」
1954年兵庫県神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。89年マサチューセッツ工科大学(MIT)でPh.D(経営学)。92年神戸大学博士(経営学)。現在、神戸大学大学院経営学研究科長。リーダーシップ、モティベーション、キャリアなど、経営学の中でも人間の問題に深く関わるトピックを主たる研究分野としている。 おもな著書・訳書に『変革型ミドルの探求』(白桃書房)、『経営組織』(日経文庫)、『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』『サーバント・リーダーシップ入門』『社長と教授の「やる気!」特別講座』(いずれも共著 かんき出版)、『リーダーシップの旅』(共著 光文社新書)、『働くみんなのモティべーション論』(NTT出版)、『サーバント・リーダーシップ』(監訳 英治出版)など多数ある。