
公務員の評価も待遇も変わる
二〇〇四年四月一日に発表された人事院のアンケート調査によると、約八割の人は国家公務員に不満や憤りを感じており、その半面で七割近くの人が国家公務員になりたいと思ったことがある、という結果が出ました。
不満や憤りの理由で最も多かったのは「仕事のたらい回しをしようとする」が二〇・三%で五人に一人はそう感じています。次いで「対応が遅く手続きに時間がかかる」「エリート意識が高く他人を見下した態度をとる」「つまらないことで形式や前例にこだわる」「事なかれ主義である」がワースト5です。
こんな不満や憤りがある公務員なのに、「国家公務員に自分自身がなりたいか、または家族をしたいと思ったことがあるか」との質問については、「自分がなりたいと思ったことがあるし、家族をしたいと思ったことがある」が三七・七%、さらに、「自分がなりたいと思ったことがある」が三〇%と、合わせると七割近い人が「国家公務員になりたいと思ったことがある」と答えています。
また、自分はともかくも「家族をしたいと思ったことがある」という答えが一八・二%もありました。自分や家族が国家公務員であればと感じている人が九割近くにのぼります。
現実の仕事ぶりをみていて不満や憤りを感じることが多い職業に、どうしてなりたいのでしょうか。
理由のベスト3は「倒産がなく安定している」(二六・三%)、「社会貢献度が高い」(二四・八%)、「社会的信用が高い」(一一・五%)と、公務員としての仕事自体に魅力を感じているというよりは、安定していて、社会的な評価もそれなりに高いからのようです。
●年功序列型から能力主義に
たしかに、いったん公務員として就職できれば、よほどのことがない限りクビになることはなく、民間企業のような売上げのノルマもありません。給与などの処遇に関しても男女平等であり、結婚出産後も同じように働きたい女性にとっては、民間の会社と比べると、とても優遇されていて安定した生活が保障されています。さらに、退職金や老後の年金などについても充実していることから、安定志向が公務員志望の大きな要因となっているようです。
しかし、公務員の世界にも大きな変革期が訪れています。今までのような安定した優雅な公務員ライフを送れる保障はなくなろうとしています。
その一つが、公務員制度を変えようとしていることです。
国家公務員採用一種試験に合格すると、幹部候補生(キャリア)として三〇歳前後には中央省庁では課長補佐として、地方に出ると税務署長や警察署長などを務め、エリートの道を歩きます。キャリアでなければ何十年もかかってたどり着く地位に、採用試験に受かってまだ世の中の仕組みをよく知らない入省四、五年の若者が就任するわけです。その結果、自分の力を勘違いしてしまいます。
こうしたエリート主義がこれまでの「官」の世界でトラブルを起こすことがありました。そこで、一種試験の採用者でなくても、本当に能力のある人を幹部に登用しようというようになってきています。
昇給や昇任も、これまでのような年功序列型から、能力主義に移行する方向にあります。在職中の「何ごともなく」「つつがなく」は、公務員でも通用しなくなるかもしれません。
もう一つ、独立行政法人化の流れがあります。イギリスの「エージェンシー」に範をとった独立行政法人は、これまで公務員が行ってきた行政サービスを見直して、必ずしも「省庁」のなかになくてもいいものは別法人として独立させ、効率的で質の高いサービスを提供できるようにしようというものです。
独立行政法人の職員の身分は、必ずしも公務員である必要はありません。そこで、公務員の資格がない職員が主体の独立行政法人が設立されてきています。国家公務員だったのが、同じ仕事をしているのに、気がついたら公務員ではなくなっていたというわけです。
公務員でなくなるということは、社会保険など、今までは公務員であったからこそ適用されていた恵まれた制度が使えないことにもなります。
●行政法人化で公務員も一般サラリーマン
中央官庁だけにとどまりません。
国立大学は二〇〇四年四月一日から国立大学法人となりました。教職員の身分は国家公務員ではなくなり、民間人と同じになるのです。
地方自治体でも、やはり二〇〇四年四月一日から地方独立行政法人の設立ができるようになりました。財源不足のなかで、事業の効率化を進め、健全な財政となるようなありとあらゆる改革を行っていくことが求められます。その際には、現在地方自治体が行っている事業を地方独立行政法人化するなど、独自に各種施策を実行しなければならなくなっています。その場合、公務員の身分を失うこともあります。
このように公務員の身分が大きく揺らいでいます。しかし、それは必ずしもマイナスということではありません。
本書では、現在の公務員の処遇制度を説明し、その制度がどのように変わっていくのかを解説しています。公務員の今後のあり方を考える場合に少しでも理解の手助けができれば幸いです。
同時に、民間サラリーマンの方にとっては、現在の公務員制度と今後の変革内容を理解することによって、今まで抱いていた公務員に対する偏見や誤解を取り除き、現在の自分の処遇と対比することで、公務員制度改革の理解およびその必要性を実感していただければと思います。
また、公務員を目指す学生諸君にとっても、今後の公務員像がどのように変化していくのかを、正しく理解することが必要だろうと考えます。
公務員になったあとで「こんなはずではなかった」と後悔しないように、ガイドブックとして読んでいただき、将来の進路のお役に立てればと思っています。
プロローグ 「行政法人化」で公務員の暮らしはこう変わる!
シミュレーション1
A市営バス職員・鈴木さんのケース
●民営化か独立法人化か
●一夜明ければ民間サラリーマン
シミュレーション2
B国立大学助教授・田中さんのケース
●助教授と民間研究者の兼職もできる
●ジャパニーズドリームも現実に
シミュレーション3
C市水道局職員・山田さんのケース
●水道事業のほとんどが国からの借入金
●水道事業が独立法人化する?
●補助金が15%もカット
第1章 公務員の給与や待遇はどうなっているのか
1 公務員とはどういう人たちなのか
*国や地方自治体で働き、行政を担うのが仕事
2 公務員になるにはどうすればいいのか
*いわゆる「キャリア組」「ノンキャリア組」は試験で区別される
3 公務員の仕事って楽なのか
*部署によって繁閑の差が大きい
4 公務員は解雇されないのか
*法律に触れないかぎりクビにはならない
5 給与や退職金が民間より多くもらえるのか
*少しでも多く退職金をもらえるシステムがある
6 公務員は仕事ができる人間が出世するのか
*キャリアが出世するしくみになっている国家公務員
第2章 公務員制度のここが変わる
1 変化のキーワードは行政のスリム化
*10年間で25%の国家公務員をリストラ
2 公務員の評価も能力主義になるのか
*能力に基づいた人事管理システムを検討
3 公務員に階級制度はなくなるのか
*「キャリア組」でなくとも幹部になれる道はできたが…
4 人事・評価制度はどう変わるのか
*試験区分の見直しや年齢制限の撤廃も検討
5 どんな仕事の公務員が民間並みになるのか
*必ずしも国が手掛けなくてもよい事業が独立法人化される
6 退職後の「再雇用」はどうなるのか
*再任用制度で65歳まで再雇用が可能に
9 クレーム処理は実務の予行練習
第3章 独立行政法人とは何か
1 「独立行政法人」とはどんな機関か
*柔軟で質の高い行政サービスをすることが目的だが…
2 第3セクターとはどこがどう違うのか
*3セクは官民共同出資による経営組織
3 独立行政法人の設立方法は?
*「評価委員会」が評価して大臣が認可する
4 独立行政法人の役員は何人いるのか
*役員は最低1人と複数の監事が必要
5 職員は公務員ではなくなるのか
*独立行政法人の区分によっては公務員でなくなる人もいる
6 職員の給与はどうなるのか
*独立行政法人の給与規程によって支給される
7 勤務体系は民間並みになるのか
*業務内容によって独自に決めることができる
8 独立行政法人の財源はどうなっているのか
*国から「運営費交付金」が支給される
9 独立行政法人も決算書をつくるのか
*民間企業と同じ会計制度を採用
10 独立行政法人も赤字なら倒産するのか
*赤字が何期続くかではなく業務の中身で判断
第4章 国立大学法人と地方独立行政法人
1 国立大学法人は独立行政法人とどう違うのか
*学術研究の場として自主性・自立性を高めている
2 国立大学法人の職員は公務員でなくなるのか
*国家公務員の身分はなくなる教職員
3 授業料は自由に決められるのか
*一定の範囲で自由に決められる
4 教職員の給料はどうなるのか
*支給基準は「能力給」の考え方を導入
5 学長はどうやって選ばれるのか
*大学を経営するマネジメント力が問われる
6 地方独立行政法人は国の行政法人とどう違うのか
*基本は地方版の独立行政法人
7 地方独立行政法人の職員の給与はどうなるのか
*交付金削減で給与は減る可能性が高い
8 地方独立行政法人の勤務条件はどうなるのか
*個々の法人によって勤務条件は変わる
第5章 行政法人化で保険や年金はどうなるのか
1 サラリーマンのように労災にも加入するのか
*非公務員型法人の職員は労災保険に加入する義務がある
2 雇用保険には加入するのか
*公務員型法人なら雇用保険には加入しない
3 年金は共済のままなのか
*非公務員型法人は共済年金と厚生年金のどちらかを選ぶ
4 公務員もリストラされるのか
*中央省庁のツケが回される地方公務員
5 天下りはなくなるのか
*ルールの厳格化で抑制する方向にはあるが…
事例1 独立行政法人「統計センター」のケース
●組織は機能的になったが立場は公務員のまま
事例2 独立行政法人「日本貿易保険」のケース
●設立目的はまるで民間企業だが……
●一年目は国家公務員と同じ給与だが二年目からは能力評価
1964年新潟県に生まれる。1987年中央大学商学部卒。1988年太田昭和マネージメントサービス株式会社(現新日本アーンストヤング税理士法人)入社。1990年税理士試験合格。1996年不動産鑑定士2次試験合格。現在、新日本アーンストヤング税理士法人 公益法人コンサルティング部 担当パートナー。 公益法人の設立・運営・統廃合に関するコンサルティング業務を中心に、優良未公開企業の事業承継に関するコンサルティング及び公社・公団・事業団等の民営化に関するコンサルティングなどにも従事。