読書の秋が来た。
読めば読むほど味わい深く、新しい学びを得られる本がある。その一つが、私の中学の時の必読課題図書だった「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著 岩波文庫)だ。
著者が子供たちに伝えようとした熱い思いに、心打たれることが多い。
今日久々に読み返してみて共感したのは「ナポレオンと4人の少年」という章だ。英雄的精神を失わず、活動的な生涯をおくったナポレオンが、絶賛されている。
「日本では、総理大臣を2、3年つとめると、大抵の人がからだをこわしてしまうといわれている。(中略)それを思ってから、ナポレオンの生涯を見てみたまえ。彼は、大動乱のあとのフランスに新しい秩序を打ちたてなければならなかった。絶えず外国の干渉を撃退しなければならなかった。そして、それをやりあげてから、休む暇もなく、ヨーロッパの国際政治の真唯中に立って、荒海のような外交関係を乗り切ってゆかなければならなかった。彼はその仕事を立派に引き受けて、国内の問題も、外交問題も、すべて自分が一手に決済していったばかりではない。その間に、歴史上それまでなかったような大戦争を、つづけさまに3つも4つもやって、しかも、その度ごとに、自分自身戦場に立って、大軍の指揮を引き受けたのだ。ほんとうに、驚くばかりの精力じゃないか。」
しかし筆者は、ナポレオンの活動力を絶賛しながらも、次のような問いを投げかける。
「ナポレオンは、その素晴らしい活動力で、いったい何を成し遂げたのか」
封建制度を打ち倒した、ナポレオン。しかしナポレオンはいつしか、自分の権力のために権力を揮うようになり、逆に人類の進歩に逆らうようになっていった。筆者は、小学生にも理解できる平易な文章で、次のように論じる。
「英雄とか偉人とかいわれている人々の中で、本当に尊敬が出来るのは、人類の進歩に役立った人だけだ。そして、彼らの非凡な事業のうち、真に値打のあるものは、ただこの(人類の進歩という)流れに沿って行われた事業だけだ。」
そして筆者は、次のメッセージで、この「ナポレオン」の章を締めくくった。
「君も大人になっていくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かしきれないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知って来るだろう。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気迫を欠いた善良さも、同じように空しいことが多いのだ。君も、いまに、きっと思いあたることがあるだろう。」
1937年に、筆者が子供たちに向けて送った、渾身のメッセージである。
私はどう生きるべきなのか、久々に原点に立ち返って考えてみたい。
読書の秋である。
山中れいじ
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