最弱チームだったアントラーズの中で、唯一の日本代表選手。それが、フォワードの黒崎だった。しかしジーコは、あえて黒崎を先発から外し、控えに追いやった。
以下、ジーコの文章からの抜粋である。
「今のクロでは、はっきり言ってアントラーズでは使えない。チームの方針を理解していないし、チームを引っ張る強いパーソナリティのようなものが欠けている。とにかく今のままではだめだ。おまえが新しい何か、プラスアルファを身につけたとき、アントラーズの主軸として、チームになくてはならない存在になるんだ」彼は、私の言うことを黙って聞き、「わかりました」と答えたが、心の中は悔しさでいっぱいだったにちがいない。その気持ちは、私には痛いほどよくわかった。私にも同じ経験があるからだ。実力では他の誰にも負けないと思っているのに、試合に使ってもらえない。
これほどつらいことはない。フラストレーションがたまり、気持ちがどんどん落ち込んでいく。しかし、一流と呼ばれる選手は誰しもこれを経験している。一流と皆に認めさせるには、何度も自分の殻を破ってだっぴしなければならないが、干されることも脱皮のチャンスのひとつだ。自分自身をみつめ直し、自分の役割とは何なのか問い直すいい機会なのである。「この悔しさを蓄積しておけ。そして、チャンスをもらったときに、それを爆発させろ。それがおまえの復活する道だ」
最後に、私はそう言った。このチャンスをものにするかどうかは、黒崎しだいである。
黒崎は、復活した。より強くなって、またよりチームの方針にフィットするフォワードとして、役割を果たすようになった。ジーコが意図的に与えた試練を糧として、黒崎は成長したのだった。
ジーコの例を見ても、また中村俊輔の例(注)を見ても、「干される」経験が選手のプロフェッショナリズムを激しく強めるケースが多く、参考になる。干された時に「腐る」か、「自分を見つめ直して鍛え直す」か、気持ちの持ち方次第で、行き着く先は大きく異なってくると思う。
山中礼二
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