誰に勧めていただいたのか忘れてしまったのだが、長谷川耕造氏(グローバルダイニング)の「タフ&クール」は、数ある起業家本の中でも有数の面白さだった。
自信の青春と、経営の失敗談を赤裸々に語っている長谷川氏。なんと魅力的なキャラクターだろうか。
いくつかの失敗談の中から、特に示唆に富む話を一つ、ご紹介したい。
(引用はじめ)
「70年代終わりまで、長谷川実業に体系だった社員教育のシステムはなかった。また、つくろうともしなかった。そもそも、会社組織といえるほどの体をなしていなかった。あえて言うならば、「ぼく」そのものが、当時の長谷川実業のシステムであった。」(「タフ&クール」長谷川耕造)
ご自身の時間が、回らなくなってきたことに気づいた、長谷川氏。オペレーションの標準化と、人事管理システムの構築に乗り出した。しかしこれが、逆効果となる。
「もちろんこうしたマニュアルも必要なのだが、肝心なことは、このマニュアルをベースに、いかに現場のサービスや技術を向上させ、売上増につなげるか、ということなのだ。ところが、ぼくのつくったマニュアルには、その肝心かなめの点が欠けていた。・・・要するに、当時の長谷川実業の業態や規模といった実態を無視し、知識に頼りすぎたかたちでこのマニュアルをつくってしまったのだ。かつてサービスを軽視していたときと、僕の根本的な発想はなんら変わっていなかったのだ。」
「そのうえ、このマニュアル作成と平行して、まともな企業にはきちんとした組織を、と思い込んだがために、役職を必要以上に増やしてしまった。その結果どうなったか。社内の風通しは悪くなり、社長であるぼくに、現場の情報が伝わりにくくなってしまった。大した規模でもないのに、一種の大企業病にかかってしまったのである。・・・しかし、この時点では、まだこの組織改革が、長谷川実業をつぶしかねないほどの問題をかかえているとは、ぼく自身気づいていなかった。」
(引用終わり)
その後、最も重要な現場マネージャー二人が「辞める」と言い出した。長谷川氏は、彼らの離職理由を聞き、現場とトップとの意識に大きな乖離があったことを悟った。
仕組み化や経営の組織化は重要だが、そのタイミングの判断は難しい。「セオリーに頼ってベンチャーのマネジメントをすることが一番危険」というのが、唯一普遍的なセオリーかもしれない。
山中礼二
飛行機を飛ばした起業家、(株)エアトランセ代表取締役の江村林香さんの「合コン必勝法」は面白い。
<ここから引用>
突然ですが、ここで女性読者にプレゼントです。合コンをして、参加した男の子全員にあなたのことを印象付ける方法をお教えしましょう。顔がかわいいとか、性格がいいとかは関係なしです。
方法は簡単。男の子の中で一番しゃべる人、もしくは一番地味でカッコ悪い男の子と、異常にしゃべりまくるのです。
(中略)
合コンで成功する一番の鍵は「社会性」です。暗い男の子や地味な男の子にバンバンしゃべりかけると、この子は性格がいいと思われます。そして、男の子は基本的に負け戦をしない性格なので、少しだけ「誘っても大丈夫オーラ」を出すと、簡単に誘ってくれるのです。これが私の合コン必勝法です。
さて、なぜこんな話をするのかというと、私は、仕事も恋愛も成長も合コンも、すべては「科学」だと考えているからです。ある法則があって、誰でもただそれを繰り返すだけで、ある程度の結果を出すことができるのです。力や才能のあるなしに関係なくです。
そして私は実際に、カテゴリー別にそれぞれ「10か条の法則」を作って、それを実践しています。
(「まずは小さな世界で1番になる」 江村林香)
すぐれた起業家は、自分なりの「成功法則」を持っている場合が多い。過去の小さな成功体験の積み重ねにより、その人固有の「成功法則」が形作られる。江村さんの「合コン必勝法」は、その典型例だと思う。
山中礼二
2歳半の我が娘が、「ママが怒るとこわーい」と言った。妻が「パパは?」と聞くと、娘の答えは、
「パパが怒ると、かっこわるい。」
なめんな、二歳児よ。
山中礼二
再び「ジーコのリーダー論」に戻る。ジーコは、鹿島アントラーズの宮本監督と、しばしば意見を衝突させていることを、全く隠そうとしなかった。
(以下、引用)
意見の衝突は、けっして相手が嫌いだから生じるものではない。お互い本気でチームを強くしようと考えているからこそ生じるものなのだ。意見の衝突が多ければ多いほど、激しければ激しいだけ、それだけチームに対して真剣に取り組んでいるということだ。どんなに激しい意見を交わし、衝突しようと、私と監督は徹底的に話し合ってきた。そして、お互いの考えを尊重し、理解し合ってきた。
(中略)
私の言う相手を尊重するとは、お互いが遠慮することではない。自分が持っている意見を真正面からぶつけあい、それについて徹底的に話し合うことこそ、ほんとうの意味での尊重なのだ。鹿島アントラーズというチームを指導する立場にあるリーダー同士が、情熱を傾け、尊重しあい、お互いのコミュニケーションがなされたからこそ、チームはまとまったのだと私は考えている。(引用終わり)
(「ジーコのリーダー論」ごま書房)
我が身を振り返れば、全ての人をハッピーにすることにエネルギーを集中させるあまり、自分の意見を真正面からぶつけることを恐れてきたように思う。全力で自説を述べ、全力で相手の意見を理解しようと努力する。この熱意を欠いた「調整役」には、何の価値もない。
山中礼二
1983年、観光バスやタクシーを手配する「キャブステーション」という零細企業が、産声を上げた。
87年、東京の新大久保の雑居ビルの一角に、小さな営業所を出した。オーナーと、役員と、もう一人はローワークで採用したお茶くみ雑用係の「女の子」。短大卒で、合コンとディスコをこよなく愛する「女の子」だった。
しかしこの女性は、ただものではなかった。
キャブステーションが資金ショート寸前に陥った時に、この「女の子」は言った。「この問題を打破します。経理の人3人分の仕事を全部一人でやるので、3人分の給料を下さい」
それ以来、経理回りの仕事は、全てこの「女の子」の仕事になった。
その後、この「女の子」は、全国のタクシー会社に飛び込み営業をして、ジャンボサイズのタクシーを保有する全国200社のネットワークを構築。国内旅行用のタクシー手配を大きな事業に育て上げた。キャブステーションの売上は数十億円単位に伸びた。
その後は、ユニークな新規事業を次々に立上げ、取締役に就任。独立。そして彼女は今、大規模な資金調達に成功し、北海道に近距離の航空会社を立ち上げた。株式会社エアトランセ代表取締役、江村林香さんである。
著書の「まずは小さな世界で1番になる」(かんき出版)を読み始めたのだが、むちゃくちゃ面白い。
私は江村さんにお会いした時に、その成功体験の豊かさと、人を惹きつける自信と明るさに、強い印象を受けた。そのバックグランドが、この本を読んではじめて分かった。帰宅途中の読書で興奮した私は、自宅に帰って、「すごいんだよ。この江村さんって人はねえ・・・。」云々と妻にしゃべると、妻は言った。
「知ってるよ。金スマ見たもん。」
そうでした。江村さんは、金スマ波乱万丈なんちゃらで、特集されていました。
普通の人が、小さな成功体験を積み重ねて、リーダーになる。そのプロセスがわかって、興味深い一冊。まだ読み終わってないけど。
山中礼二
ジーコの本を読むと、教育・育成に関する彼の知見の奥深さに、驚かされる。
(以下、引用)
選手の才能に対して、あれはいい、これはダメと結論を急いではならない。一見プロとしてやっていくには才能が足りないと思えても、あわててダメという烙印を押すことはない。まずはその選手をいろいろな角度から分析し、それから対処法を考えることだ。
まず、いったい彼は選手として何が欠けているのか、どういった問題を抱えているのかをじっくり分析する。そして、どういうサッカー体験をし、どういう練習を重ねてきた結果、彼がそういう否定的な結果を出しているのか、いろいろな側面から見ていかなければならない。
学ぶということひとつとっても、いろいろなことが考えられる。場合によっては、彼は学ぶ才能が欠けている選手なのかもしれない。才能が欠けていないにしても、学び方が人よりゆっくりなのかもしれない。あるいは練習から学ぶのはうまいが、実戦に出て、試合から学ぶことがヘタという場合もあるかもしれない。こういう場合は、学び方さえしっかり身につければ、ぐんぐん伸びてくる可能性だってある。
(引用終わり)「ジーコのリーダー論」(ごま書房)
この本を大学生の時に読んでいたら、私はもうちょっとまともなディベート教育を、後輩に対してできたような気がする。
山中礼二
ジーコ本にも、まだまだご紹介したいセンテンスがあるのだが、今日は中田ヒデの話題。
3月8日の日経新聞からの抜粋である。
中田英は「日本人だから」「スポーツ選手だから」「サッカー小国だから」といった言い訳、限界を自らの内側に設けない。外側にある壁は創意と工夫で乗り越える努力をしてきた。言い換えれば、前例をうのみにしてこなかった。 中田英は語る。 「他人のマネをするということは、自ら考える必要がないだけに実はとっても楽だし、言い訳もできるため、責任を感じることも少ないように思います。しかし、それを続けていくと、どんな経験をしても『……のおかげ』『……のせい』になってしまう。逆に自分で考えて行動したことは成否にかかわらず必ず自分の糧、経験になる。それにはすべての行動、言動に対して自己責任が出てくるわけで簡単なことではないと思いますが……」 何事も人任せにしない中田英は「一知半解」を嫌う。「自分で考えるときには、できうる限りの情報を集めてよく吟味してから答えを出す必要があると思っています」 高校生になったころの中田英を知る山本昌邦(現磐田監督)は、代表合宿での今と変わらぬ質問魔ぶりを懐かしく振り返る。 「あの年代って合宿の自由時間になったら子供同士で遊ぶでしょ。ヒデ(中田英)は平気で大人の輪の中に入ってきて、こちらを質問攻めにした。『世界と日本の違いって何ですか』『それを埋めるには何が必要ですか』とか。『パスの速さと質が違う』と教えると、次の日には、もう強いボールをけっていた」 「情報に対する飢餓感がほかの子とまるで違った。新しいことを先取りしたい気持ちが非常に強くて。そうやって考え抜いてきた蓄積があるから、整理する基準も明確なのだと思う」(引用終わり)
「伸びる人」と「伸びない人」の違いを考える上で、中田の思考パターンは、非常に参考になる。
山中礼二
最弱チームだったアントラーズの中で、唯一の日本代表選手。それが、フォワードの黒崎だった。しかしジーコは、あえて黒崎を先発から外し、控えに追いやった。
以下、ジーコの文章からの抜粋である。
「今のクロでは、はっきり言ってアントラーズでは使えない。チームの方針を理解していないし、チームを引っ張る強いパーソナリティのようなものが欠けている。とにかく今のままではだめだ。おまえが新しい何か、プラスアルファを身につけたとき、アントラーズの主軸として、チームになくてはならない存在になるんだ」彼は、私の言うことを黙って聞き、「わかりました」と答えたが、心の中は悔しさでいっぱいだったにちがいない。その気持ちは、私には痛いほどよくわかった。私にも同じ経験があるからだ。実力では他の誰にも負けないと思っているのに、試合に使ってもらえない。
これほどつらいことはない。フラストレーションがたまり、気持ちがどんどん落ち込んでいく。しかし、一流と呼ばれる選手は誰しもこれを経験している。一流と皆に認めさせるには、何度も自分の殻を破ってだっぴしなければならないが、干されることも脱皮のチャンスのひとつだ。自分自身をみつめ直し、自分の役割とは何なのか問い直すいい機会なのである。「この悔しさを蓄積しておけ。そして、チャンスをもらったときに、それを爆発させろ。それがおまえの復活する道だ」
最後に、私はそう言った。このチャンスをものにするかどうかは、黒崎しだいである。
黒崎は、復活した。より強くなって、またよりチームの方針にフィットするフォワードとして、役割を果たすようになった。ジーコが意図的に与えた試練を糧として、黒崎は成長したのだった。
ジーコの例を見ても、また中村俊輔の例(注)を見ても、「干される」経験が選手のプロフェッショナリズムを激しく強めるケースが多く、参考になる。干された時に「腐る」か、「自分を見つめ直して鍛え直す」か、気持ちの持ち方次第で、行き着く先は大きく異なってくると思う。
山中礼二
仕事が忙しく、しばらくブログを書けなかった。しかしその間も本だけは読んでいたため、書きたいネタは山ほどたまっている。
今日は、グロービス・マネジメント・スクール講師の岡村さんに勧められた、「ジーコのリーダー論」からのご紹介。1998年に書かれたこの本を読むと、ジーコが最弱チーム鹿島アントラーズを最強軍団に変えた秘密がわかる。
ジーコは、まだ二部リーグからJ-Leagueに編入されたアントラーズの選手達に、ジーコは言った。
「私は選手たちに『私は、このチームを優勝を争えるチームにするために来た。私の技術や経験や知識をすべて君たちに伝える。だから、君たちもトップに立つことを目指してほしい』とはっきり言った。」
「何かをはじめようとするとき、もっともたいせつなのはチャレンジする気持ちだと私は考える。とくに、これから組織を作り上げ、部下を育てていかなければならないリーダーには、なくてはならない資質だ。大きな目標に向かっていこうとしないリーダーに、誰がついていこうと思うだろうか」
「リーダーは、つねに上へ上へとチャレンジするべきだ。たとえ、それが現時点では不可能なことのように思えても、けっしてチャレンジする姿勢を忘れてはならない。そのリーダーのエネルギーが、部下を変え、組織を変えていくのである。」
私が2000年に初めて、GDH(2004年マザーズ上場)の石川社長にお会いした時に、石川社長は「会社を大きくして、ディズニーを買収する」と言い放った。上を目指す激しい気持ちが、リーダーには必須だと思う。
山中礼二
三井物産をつくった益田孝の話。経営していた三井炭鉱が、外部環境の激変のため、経営危機に瀕した。
(以下、日経新聞からの抜粋)
当時、益田は会社の屋根が見えると、「今日もこの屋根の下で苦しむのかと思って、胸が悪くなって来て酸っぱいものが出る」という有様だったが、やがて悟る。「養生の第一は食物。それから、人間には楽観ということが必要である。自ら求めて悲観しないこと、物事を苦にせざること、何事にあれ諦めて潔く断念すること、どんな難儀なことが起こっても、尽くせるだけ尽くして、なに心配することはない、こうしておけばその内にどうんかなるだろうと考える。(略)これが大切な養生である」
「やさしい経済学-ニッポンの企業家 益田孝」(小島英記)(日本経済新聞2月28日より抜粋)
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これには、共感できる人と、共感できない人がいるだろう。しかし、「成功する起業家は、ストレス耐性が強い」というのは、厳然たる事実だと思う。
不必要に自分の心を苦しめないこと。自分の心を大切にケアすること。時々益田孝の言葉を思い出して、自戒したい。
山中礼二